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東京高等裁判所 昭和28年(ネ)2160号 判決

控訴人

(原告) 坂東太

被控訴人

(被告) 水戸市長 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人水戸市長は控訴人に対し同被控訴人が別紙目録記載の建物につさ昭和二十八年二月二十八日付公売に因る所有権移転登記(水戸地方法務局昭和二十八年三月七日受付第一二六一号)の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述ならびに証拠に対する関係は、控訴代理人において本件建物は水戸市泉町三丁目千四十番に所在し泉町本町通り水戸第一劇場に通ずる交通便利の地にあり木造亞鉛葺平家建店舗兼住家建坪二十三坪七合五勺、時価を低廉に見積るも金三十万円以上に相当し、現に被控訴人須藤は公売による買受値段金二十四万円にて他に転売したという噂があり、本件公売価格金十二万円は著じるしく低廉に失し本件公売処分は無效である。

被控訴代理人は、本件家屋が控訴人主張の場所に位置することは認めるけれども、その価格に関する控訴人の主張事実は否認する。とそれぞれ述べ、立証として

控訴代理人は甲第二号証の一乃至四を提出し、当審証人坂美代子(第一、二審)、関藤次の各証言および当審における控訴本人坂東太尋問の結果ならびに当審における検証の結果を援用し、乙第四乃至第七号証および同第八号証の一、二の成立を認め被控訴代理人は乙第四乃至第七号証および同第八号証の一、二を提出し、当審証人飛田三郎、石川浩秋、八木岡稔、須藤嘉明の各証言および当審鑑定人益子六郎の鑑定の結果ならびに当審における検証の結果を援用し、甲第二号証の一乃至四の成立を認める。

とそれぞれ述べたほか、原判決の事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

理由

当裁判所は次に追加判断するほか、原判決と同一の理由により控訴人の本訴請求を失当と認める。

(一)  控訴人は本件公売処分に先だち差押調書謄本の交付がなかつたとの点について、当審において新たに甲第二号証の一乃至四を提出し、当審証人坂美代子(第一、二回)、関藤次の各証言ならびに控訴本人坂東太の陳述を援用するけれども、右の点に関する甲第二号証の一乃至四の各記載、右各証人の証言および控訴本人の陳述ならびに原審証人江幡勝夫の証言は、当審証人飛田三郎、石川浩秋の各証言に比べ信をおき難い。

(二)  本件家屋が控訴人主張のような場所にあることは当事者間に争いがないところであるけれども、昭和二十八年二月当時本件家屋の時価が金三十万円以上を相当としたとの控訴人主張事実については、この点に関する原審証人小沼潔の証言および原審における控訴本人坂東太の陳述は当審鑑定人益子六郎の鑑定の結果に比べ信用し難く、その他右控訴人主張の事実を認めうる証拠はない。もつとも当審における控訴本人坂東太尋間の結果によれば同人は本件家屋はその後金二十二万円で川上源吾なる者に売却せられたと伝聞している旨陳述しているけれども、右陳述は直ちに信用し難いのみならず、かりに右のような取引があつたとしても、

本件公売当時と右売買当時との間に経済事情の変動を生ずることあり、その他特殊事情の存在する結果公売価格より高値に取引せられることあるべく、右一事により本件公売価格金十二万円が時価に比し著るしく低廉であるとは断言し難い。かえつて本件公売による入札手続等が不正手段によりなされた事実に認むべきものがない限り、右公売価格は相当なものと認むべきであるから、この点に関する控訴人の主張もまた採用し難い。

以上のように控訴人の請求は失当であつて、これを棄却した原判決は相当であるから、本件控訴はこれを棄却すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決した。

(裁判官 渡辺葆 牧野威夫 野本泰)

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